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Leaf Ticket

「公園通り駅出発しまーす。お乗りの方はお急ぎくださーい」

「のりまーす。ハイ!車掌さん切符です!」

 そういって私は切符に見立てた葉っぱを差し出す。真ん中には「きっぷ こうえんどお
りはつ」と書かれている。

「はい。では、到着駅まで切符はなくさないで下さいね。出発進行!」

 祐君がそういうと、ロープで囲っただけの電車が動き出す。幼い頃に祐君とした電車ご
っこ。私のぜんぶが詰まっている夢。



「……うーん……。あれ?」

 いつの間にか寝てしまっていたみたい。今日帰ってくるはずの祐君を迎えに行こうと思
ってちょっと公園に寄っただけのはずだったのにいつの間にか寝てしまっていたみたい。

「あれ?もう5時!完全に遅刻だ」

 慌てて駅に向かって走り出すと、手に持っていた手紙の束を落としてしまった。あわて
て拾うと大事にカバンの中にしまった。10年分の手紙しめて32枚。10年分にしては少ない
かもしれないけれど、祐君は筆不精だし最近はメールでやり取りもしていたから連絡を取
っていなかったわけではないと思う。
 それでも直接会うのは10年ぶりだよね。祐君は地方の大学に行って以来殆ど帰ってこな
いし、帰ってきても私が忙しくてあえない時ばかり。写真はお互いに時々送っていたけれ
ど、やっぱり直接会うのとは違って寂しいと思っちゃう。
 待ち合わせは4時半だったので待っていないかもしれないけれど、一応駅まで行ってみ
よう。

 駅までの道のりで今までの事を色々と思い出していた。
 祐君のことが好きで。
 帰ってくるまで待っていると約束をして。
 友達にバカにされて。
 自分でもなんで祐君のことをこんなに待っているのかわからなくなって。
 告白してくれた男の子とためしに付き合ってみたけれど、しっくりこなくて。
 彼と祐君をどこかで比べている自分がいて。
 アレを見るとどうしても祐君のことが忘れられなくて。

 そんなこんなで10年もたってしまった。だから今日は絶対に祐君に話すと決めていた
んだ。私がずっとあたためてきた思いを。結果がどちらでも自分が進むために。ここに止
まっていたら、私はいつまでも「幸福(しあわせ)」にたどり着けないから。

 駅につくと祐君は階段に座って待っていた。少し前にくれた写真と殆ど変わらないけれ
ど、すこし髪の毛が伸びているかな。祐君はなにをするわけでもなく、ぼぉっとしている
みたい。

「祐君?」

 遅れてしまった後ろめたさから、おっかなびっくりになってしまった。

「……久しぶりだな、琴葉。10年ぶりくらいか?」

「うん、おくれちゃってごめんね。少し時間潰そうと思ったら公園で寝過ごしちゃって」

「昔からお前はそうだっただろ?別に気にしてないよ。待ちくたびれたから帰ろうぜ。家
で休みたいよ」

「ねぇ、祐君。遅れてきたのに図々しいけれど、ちょっと寄り道に付き合ってくれないかな?」

「買物か何か?荷物もちになりましょう。お姫様」

「むー……。なんか引っかかるいいかたするー。祐君意地悪だ」

「遅刻してきたんだから文句言わない。俺は琴葉をそんな風に育てた覚えは無いぞ!」

「祐君に育てられた覚えなんかないですよー」

 10年ぶりなのに、2人の関係が何も変わっていないのがとてもうれしかった。これな
らば気持ちを伝えられそうな気がする。10年分の思いを。

「ほら、祐君行くよ!」

 まだ座っている祐君の手を取って歩きだす。懐かしくて、楽しい気分に思わず笑顔にな
ってしまった。

「はいはい、ちゃんと行くから慌てなさんな。で、どこにいくんだ?」

「ついてくればわかるよ。しゅっぱつしんこー!」

 行き先は告げずに、さっきまでいた公園のほうへ向かっていく。途中はずっと私のこと
を話していた。学校の事、友達の事、それを祐君は相槌を打ちながら聞いてくれた。

「とうちゃーく。祐君ここ覚えている?やっと祐君と戻ってくることができた」

 昔よく電車ごっこをした大きなホオノキの森。森というには小さいかも。私の全てが詰
まっていて、私の全てが始まった場所。

「……どうだったかな。昔遊びにきたか?」

「え……祐君覚えていないの?私、コレも大切に取っておいたんだよ?」

 カバンの中からホオノキの葉の押し花を取り出してみせる。


『きっぷ こうえんどおり⇒よーこのしあわせ』


「私……私ずっと祐君のことが好きで、ずっと祐君との約束を信じて……それで……それで」

 もう最後のほうは自分でも何を言っているのかわからない。思いつく言葉を順番に言っ
ているだけ。

「だから、祐君に私のずっと暖めてきた気持ちを伝えようって決めていて。でも……迷惑だったよね?こんなものずっと大事に持っていて気持ち悪いよね。ごめんな…」

 言葉の途中で目の前が暗くなった。なにが起きたのかわからないけれど、暖かい。抱き
しめられたと気付くのに時間がかかった。

「すまん、ちゃんと覚えているよ。忘れているわけが無いじゃないか。琴葉との大切な思い出だもの。」

「嘘だ!じゃあ何であんな事言うのよ!忘れていたからでしょう!祐君なんか!祐君なんか!」
 そういいながら祐君の胸を力いっぱい叩くけれど離してはくれない。

「本当だ。俺が車掌で琴葉がお客。俺がお前を幸せにするからこの切符を無くすなって言
ったよな。」

「なんで……じゃあなんであんなこというのよ。私10年も待ったよ?祐君私のこと避けて
いるみたいだったし心配だったんだから!」

「琴葉には……俺以外にちゃんとした人を見つけて欲しかった。幼馴染っていったって10
も離れているんだ?それに10年も離れていれば絶対覚えていないと思っていた」

「忘れるわけ無いよ!祐君が忘れたって私は忘れないもん!みんなが忘れちゃうくらい長
いときだって、私にとっては色あせない想いだもん!なんで、『年なんか関係ない絶対に
幸せにしてやる』っていえないのよ!バカバカ!」

「……俺が悪かった。気持ちに素直になるよ。だから今度は琴葉がその切符俺に切ってく
れないか?」

「最初からそう言ってよ。泣いた私がバカみたいじゃない。今まで逃げていた10年分と今
回の分きっちり祐君に返して貰うからね!」

 祐君に力いっぱい抱きついた。祐君も私のことを抱きしめてくれる。しばらくそのまま
2人で立ち尽くしていた。

「今まで俺の我侭で琴葉には寂しい思いをさせていたからな。これからはいっぱい琴葉に
つくすよ。そろそろ暗くなってきたし帰ろうか。今日は俺の家で食事していくだろ?」

「うん。おばさん凄く気合入れて準備していたよ。祐君のために」

「もうすぐ30の息子が帰ってくるのに、わざわざ他人まで呼んで食事する必要があるの
かねぇ。まったく」

「もう。そういう事いわないの!私はおばさんの料理大好きだから楽しみだな」

 2人で祐君の家に向かって並んで歩き出した。
 
「ねぇ、手つないでもいい?」

 私が祐君に聞くと、凄く驚いたような表情をしている。

「いや……それはさすがに恥ずかしいぞ。昔の友達とか、琴葉の友達とかいるかも知れな
いじゃないか」

「私が彼女だと思われると迷惑だよね……。」

 少し意地悪をしてみる。今まで散々待たされた仕返しだもの。少しくらい祐君に困って
もらわなきゃ。

「わかった、わかった。つなぎますよーほれ」

 顔を赤くしてまるで女の子。10年も離れていたなんて嘘みたいなきになってしまう。

「祐君、私たちって少しはわかりあえたかな?」

 返事は無い。でも祐君の表情を見れば全てわかるよ。だって物心ついたときから祐君の
こと好きだったんだもん。祐君も10年も私のこと思っていてくれたんもんね。ちょっと
すれ違っていただけ。だから、歯車があった私たちが分かり合えないはずが無い。

「そうだ。琴葉があの切符を押し花にしていたのも驚いたけどな、俺にも宝物があるんだよ」

 そういって祐君が取り出したのは、見覚えのある小さな小物入れ。カバンというにはち
ょっと小さいけれど、少し大きめの筆箱位。高校生だった祐君の誕生日に、小学生だった
私がお小遣いを溜めてかった花柄の小物入れ。とても男子高校生が使えるようなものでは
ないけれど、大切に使っていてくれた事がよくわかった。

「あきらめようあきらめようと思っていたのにどうしてもコレだけは捨てられなくてさ。
中に写真なんか入れちゃって、女々しいよな」

 中に入っていたのは私と祐君の2ショット頭二つ分も違う私たちが並んで立っている写
真。私は祐君の腕にしがみついてぶら下がっているみたいだ。

「その写真持っていてくれたんだ……」

 1枚しか現像していなかった上にネガをなくしてしまって焼き増し出来なかった写真。
それを祐君がちゃんと取っておいてくれたことがたまらなくうれしい。でも、10年の別
れは大きいよ。2人の思い出がそれしか残っていないんだもん。逆にとても寂しい気持ち
にもなる。

「私たちってまだ何もないよね」

「そりゃ俺らはまだ出発駅になったばっかりだからな。これから2人で一杯思い出を作っ
ていこう」

 そっか。そうだよね。私たちはまだ、駅のホームに立ったばっかりだもの。なにを慌て
ていたんだろう。これからいくらでも作っていけるのに。

「私ね。やりたかったこと一杯あるよ!祐君が嫌って言っても付き合ってもらうからね!」

「望むところだ。とりあえず帰るまでは琴葉姫のいう事に従いましょう」

「苦しゅうない。じゃあ手始めに家までおんぶねー」

「なんでおんぶなんだよ!」

「いいじゃない。文句言わずにはやくー」

「はぁ、しょうがないなぁ。よっと」

 さすが男の人は力持ち。私なんか軽がると持ち上げられてしまった。

「うわ〜背中からの眺めっていいね〜。祐君が普段見ているものが見えるよ〜」

「何を言っているんだよ。お前の見ている物だって一緒だろ」

「わからないかなぁ。目線が違うと見え方って変わるんだよ!」

「そんなもんか?それより琴葉おもくなっ……ッゲッフ」

 言い切る前に有無を言わせず後頭部にチョップ一閃。

「祐君が向こう言ってから何年たっていると思っているのよ!コレでも女の子のなかでは
軽いほうです!」

「いってー。私が悪うございました。お許しください姫様」

「わかればよろしい、わかれば」

 こんなやり取りが出来ているなんて、凄く不思議な気分。でもとっても幸せだ。

「ねぇ、祐君。私のこと幸せにしてくれるよね?」













「……とは。琴葉!」

 遠くで祐君の声がする。

「全く。ウェデイングドレス着たまま居眠りなんて、なんでできるんだこいつは」

 さわやかな風にのって甘い花の香が揺れている。どうやら前日に興奮しすぎて眠れなか
った私は窓際で居眠りをしてしまったらしい。頬杖をついていたみたいだけれど、化粧は
だいじょうぶかな?

「ごめんなさい。昨日興奮して眠れなくて」

「だから早く布団に入れって言ったのに。ほら、みんな待っているから行くぞ」

「うん!」

 祐君の差し出した手をとって立ち上がるとドアへと歩き出す。部屋を出ようとしたとこ
ろで自分が眠っていた窓際を見ると、『切符』と『写真』が並んでおいてあった。それで
あんな懐かしい夢をみたのか。






 私は今とっても幸せだよ!昔の私!



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あとがき。
 蝶子がI'veのイラストブックを作るという事で、漫画用のお話を書かせてもらいました。
 当初もう少しボリュームの多い話にするつもりでプロットを作っていました。ですが、
書いてびっくりどう考えても漫画の原作にしては多いだろうという状況に。しょうがない
ので現在のような状況に至りましたとさ。
 ネームの段階で私の手を離れて蝶子にまかせっきりでしたので、(いろいろ口出しはしましたが(笑)若干漫画では端折られている部分もあります。是非漫画をお持ちの方は、
そちらと読み比べてみていただけるといいかなぁなんて思います。


↓一言感想お願いします!
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