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Lily's World [1]

壁の裏に世界が「存在」するなんて、何故解るのだろう。
世界は、自分が目にして知覚して初めて「存在」しえるものだとしたら、そこに世界は「存在」しない。
世界は自分の「感覚」で皆が「感じている世界」を造り代える事ができる。
これは、そんな事に気が付き「有り得ない事象」を、
自らの「感覚」で引き起こす『リライター』と呼ばれる人達が暴れまわる、近未来のお話。


〜Einleitung〜


普段通りの朝。お気に入りのキャラクターが描かれた目覚ましで起きられなくて、慌てて髪を整える。
はじめたばかりの薄化粧を申し訳ない程度にすると、ご飯は食べずにかばんを持って家を飛び出した。
『愛澤百合絵』何処にでもいる普通の女の子・・・のはず。セミロングの髪は若干赤がかっている。
絵を描くのと、家事が好きなことぐらいしか特徴が無いのが特徴。それが私。

「お〜い!ゆ〜りぃ〜っぺ!!」

途中でクラスメートの浮葉有貴が後ろから体当たりしてきた。

「いたっ!ゆきちゃん危ないよぉ。もぅ。」

「ごめん。ごめん。愛しのゆりっぺに思わず飛びつかずにはいられなくて〜。」

有貴ちゃんと私は、アレ以来の仲良しだ。普段は落ち着いているのに、なぜか私と一緒にいるときだけハイテンションで、
必ず朝はこんな感じで飛びついてくる。腰まであるきれいな黒いロングヘアーで、
毎日あれやこれやと髪の結い方を変えてくるのが好きなちょっと変わった娘だ。
コレもいつも通りの通学風景。

・・・だった。
つい数秒前までは。
瞬間、猛烈な違和感が通り過ぎていく。
視界が歪み、時間が撒き戻るような感覚。けれど決していやな感覚ではなかった。
眠りに落ちるような心地よさ。視界の歪みと、相反する不思議な感覚スッと去って行く。
恐る恐る眼をあけてみると普段となんら変わりの無い風景。有貴ちゃんに話しかけようとした瞬間光景。
ただ、「全く空気の流れ」を感じられない。風も無ければ、自分の吐く息の流れすらも感じられない。


まるで「時間」が止まったかのように。

「ふぁ〜今の何だったのだろう・・・。ゆきちゃん大丈夫?」
「・・・。」
「・・・ゆきちゃん?」
全く反応が無い。それどころか、立ったまま皆ピクリとも動かないのだ。
「ゆきちゃん?ゆきちゃん!?」
慌てて、肩を揺らすが全く反応が無い。体温は感じるので、死んでいるわけではないのに反応しない。
・・・まるで世界から私だけが取り残されたように。

パニック状態に陥り、また肩を揺らそうとしたとき後ろから声をかけられた。

「あまり揺らさない方がいいわよ。後で壊れちゃうから。久しぶりね、百合。元気にしていた?」

紅い髪に、蒼い眼の女の人。
日本人では・・・いや人間では「有り得ない」容姿の女の人だった。



「あなたは、だれですか・・・?」

「やっぱり覚えてないか・・・。でもさすがね。何も覚えてないのに、自分に干渉するものはキッチリ遮断しているのだから。
あなたには悪いけれど、ちょっと付き合ってちょうだいね?あの子はあなたを狙えば本気を出すでしょうから。」

何が何だか分からないうちに、綺麗な腕がこちらに向けられる。
紅い髪と同じ色の振袖から伸びる白い腕。
腕を持ち上げる動作さえも、上品な美しさを漂わせて。

私は思わず見とれてしまっていた。
彼女との距離は5m位。だんだんと彼女の手の中に「何か」が出来上がっていく。

高温の炎の玉。

なぜそんなものが、そこにあるのかは分からない。
だが、彼女がこの後移る行動については、いくら何も知らない私でも気づくことができる。
そんな緊張から少しづつ後退っていく。

「ごめんなさいね、百合。あの距離じゃあひーくんも間に合わないでしょう。
後で怒られるかもしれないけれど少しだけ我慢してちょうだいね。」

笑顔を崩さずそれだけ告げると、彼女は浮いていた炎弾を私に向かって放った。

ほんの数mしかないのに、すごく長い時間のようだった。

「きゃぁーーー!!」


叫ぶと同時に急に目の前が真っ白になった。だんだん視界が戻ってくると、白い部屋に本が浮いていた。
吸い寄せられるようにソレに手を伸ばすと、急に意識が覚醒する。

「・・・。」

本当なら炎弾が当たっているはずなのに、熱くもなんともない。恐る恐る眼を開けてみると、

目の前に花びらが舞っていた。

白いガーベラの花びら。

中心で炎弾を受けとめたガーベラはそのまま花弁を閉じて飛び散り、花吹雪になっていく。

「あらあら。思ったより浅いのかしらね。まさか守護花の召喚までするなんて。
ちょっと火傷程度と思っていたのだけれど。思わぬ収穫だったわね。」

何が起こったのかわからない私を尻目に、彼女は悠々と一人で話を進めている。


グヲォォォオオオオオーーーン

と、今度は突然この世のものとは思えない叫び声が聞こえてきた。
比べたら狼やライオンの咆哮ですら子猫の鳴き声に聞こえそうな。


身をすくませながら声のしたほうを見て、私は固まってしまう。

そこにいたのは、竜だった。

ファンタジーやゲームの世界にしか存在し得ない生き物。
小型の飛行機くらいありそうな巨体で、羽ばたきながらこちらに一直線で向かってくる。
もしこの不思議な状況でなければ、大パニックになっただろう。

「姫えぇぇぇ!!!瞬間移動で逃げたと思ったら、百合絵に手出しやがったな!!」

聞き覚えのある声。クラスメートの御堂君の声だとおもう。
よく見ると竜の上に御堂君が乗っていた。

「御堂君!?なにやってるの!?」

もうわけが分からない。
急にとてつもない美人に襲われて、と思ったら花吹雪が飛び出して、急に竜にのったクラスメートが現れた。
もう唖然とするしかなかった。ある日突然こんな状況におかれて平然としてられるわけが無い。

御堂君を乗せて突進してきた竜は、私と彼女の間に着地し、御堂君をおろすと、スッと消えていった。

「姫。どういうことか説明してくれるんだろうな!?」

殴りかかりそうな勢いで彼女に食いかかっていく。

「ひーくんがウジウジしているからでしょうに。こうでもしなきゃ、
何時まで経っても危ない目にあわせちゃうかもしれないじゃないの。」

「確かにそうだけど・・・。」

全く話がつかめない。すごい剣幕で文字通り飛んできたかと思えば、彼女に言いくるめられる御堂くん。

「それに収穫もあったのよ。百合ったら千本槍の召喚を成功していた。偶然とはいえ、私の炎弾を吸収しきったのよ。」

「・・・そっか。って炎弾なんか撃ったのか!?」

「ええちょっと火傷させる程度にね。」

笑顔でさらっと、すごいこといってくれる人だ。

「まぁ怪我は無かったし、俺の文句言う所ではないか。」

いつまでたっても埒が明かないので、思い切って質問してみることにしてみた

「あの〜。すいません、襲われた私はわけが分からないのですけれど・・・。」

「私は紅姫。『紅い鍵』『鍵の皇女』なんて呼ばれたりもするわ。何の事からないわよね。
貴女に色々所縁のある者よ。急に襲ったりして御免なさい。ひーくんが素直にならないからちょっと手荒な真似しちゃったけど、
傷つけるつもりはなかったのよ。ごめんなさいね。」

彼女は、やさしい笑顔で語りかけてくる。どこか懐かしく、すべてを包み込むような笑顔。
そのせいか先ほど襲われたばかりなのに、なぜか信用できるきがしてしまった。

「御堂君はなにをしているの?」

「え?いやちょっと姫とはわけありでさ。愛澤巻き込んで悪かったな。もうすぐ元に戻るから気にせず学校に・・・。」

「何を言っているの、ひーくん。ここまで来てまだそんなことを言うわけ?第一ここまで見てしまって、
普通に生活しろっていう方が無理な話でしょ?百合絵ちゃん。」

「ええ。どういうことかちゃんと話していただきたいです。」

当然だろう。こんなに不思議な事ばかり目の前で見て『はい、そうですか』なんてとてもいえるわけが無い。

「ほらね。じゃあ順番に説明してあげるわ。百合は才能あるからできちゃうかも知れないしね。文句無いわね?ひーくん。」

「・・・あぁ無いよ。もう好きにしてくれ。」

投げやり気味に御堂君が返事をする。

「じゃあ教えてあげましょう。その前に・・・おかえり。百合・・・。」


初めてあったはずなのになぜか懐かしい声だった。 

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